8階建てのダイエーの長い長いエスカレーターに乗り続けると、やがて香ばしいポップコーンの匂いがし始める。その頃には胸のワクワク感が抑えられなくなり早足で駆け登り始める。そしてようやく辿り着く最上階のゲームコーナー。フロア全てがアミューズメントマシンで埋め尽くされた階層。ゲーム小僧だった「僕」にはまさにこの世で一番楽しい場所だった…。
僕はゲームに飢えた少年だった。「ゲームセンターあらし」でテレビゲームを知りその魅力に取りつかれたが、当時暮らしていた田舎町はゲームセンターが無く、あるのは僅かに「バトルス」や「ジグザグ」等デッドコピー品が並ぶ駄菓子屋と寂れたボウリング場のみ。ゲームへの渇望は「ゲーム&ウォッチ」等のLSIゲームで潤していたが、本当にやりたかったのはゲームの王者であるアーケードゲームなのだ。「マイコンBASICマガジン」や「Beep」に載ったゲームがしたい!そればかりを願っていた。
うちの家族は月イチほど街に出て買い物というのがパターンだった。中高生にもなれば親と行動するのは嫌になるものだがアーケードゲームを出来るという誘惑は何物にも代えがたい。当然毎回喜んで付いて行った。車中で読むゲーム雑誌の攻略記事を頭に叩き込むが、どのゲームも1~2面で終わるので大半が無駄知識に終わる。その情熱を勉強に向ければ良いのにというのは野暮な話だ。
そのダイエーでは様々なゲームとの出会いがあった。「トランキライザーガン」「タンクバタリアン」「スパルタンX」等など。
そして「スペースハリアー」ともそこで出会うこととなる。
「Beep」で読んで当然知っていたが、現物の凄さに気圧された僕はぽかんと他人のプレイを見るだけだった。ひょっとすると初見時にはプレイしなかったのかもしれない。内容的に全く出来る気がしなかったし、周囲のプレイヤーも多かっただろう。
そして意を決し座席に座り込み操縦桿を握ると、そこにあったのは圧倒的なスピード感と存在感をもって迫ってくるドラゴンランドの世界そのものだった。
惜しいことに筐体はシットダウンタイプでムービング筐体を体感できるのはまだまだ先だった。
なお数年後、アウトランさん相手にムービング童貞を捨てる事となる。
その頃僕は某ゲームサークルに所属しており、その時に知り合ったのが後に「ゲーメスト」初代専属絵師となる転清氏である。会報のスペースハリアー特別号で転氏が描かれたマンガや記事に夢中となり終盤までの攻略記事を丸暗記したが、いつも通りに力足らずで役立つことはまだ無かった。
その後、家を出て街に暮らすようになる。当時エリア一番のゲームセンターは「ダライアス」やスーパーDX筐体「ギャラクシーフォース」等大作を次々導入していた名店で、有り難いことにスペースハリアーだけは他機種が取り替えられていく中でも実に長く設置され続けていた。ムービングが正常だったのは最初の数年だけであとは動かなくなってしまったが、それでも置いてくれているだけでも有り難い。
そして「私」もいつしか大人となったが、ゲーム小僧の性根はそのままだ。セガサターン版にてハリアーとの再会を果たし、ドリームキャストの「シェンムー」に触発されて「スペースハリアーのホームページを作ろう!」と思い立ち作ったのが攻略サイト「Get Ready!」だ。後にそれはセガAM2研の公式ファンサイトにも認められ、サイトを通じて色んな出会いや喜びを味わうことが出来た。「スペースハリアーという最高のゲームをもっともっともっと知ってもらいたい!」という一念から立ち上げたサイトだったが、あたたかい感想をいただくたびに「作ってよかった」とつくづく思う。未だワンコインクリアを達したこともないようなヘタゲーマーの私にとって最高の誉れである。
そして2015年。ファーストコンタクトから早くも30年。ダイエーもそのゲームセンターも今はもう無い。
そしてひょんな事から様々な縁が重なりスペースハリアーの30周年記念本をつくる事となった(しかも中心人物として!)。
ただただ万感の想いである。
あの日、スペースハリアーに魅入られていた少年に向かって私が「君は30年後、Beepの人や日本中のファン達と一緒に本を作ることになる」と告げたら、僕は一体どんな顔をしたであろうか?
※区別のため当コラムに於いてはスペースハリアーに登場するロボットはドム(カッコなし)、「機動戦士ガンダム」に登場するモビルスーツは「ドム」(カッコあり)で記述しております。
重厚なシルエットを持ちながらその姿に似合わぬ軽快でスピーディな機動性をもち、4種の機能差を持つカラーバリエーションと眩く煌くボスを備えた多様性。優れたデザイン性・性能・存在感全てを兼ね備えたドムは、魔生物と機械が混在するドラゴンランドに於いて代表的な存在であることは間違いないだろう。
そのドムをバリエーションとメカニカルとデザインの3点で語らせていただきたい。
まずはバリエーション。
カラバリは9面ボスを含めて5色だが、スペック的には3種に大別される。緑黒/赤青/金色だ。
スタンダードな緑・黒ドムは地表をホバリングで滑走し、黒ドムがたまにジャンプする程度でさほど性能は高くない。3機前後の編隊を組むことが多く、固体性能より数で攻めるタイプの「やられメカ」である。緑と黒の性能差もあまりない。4面ボスとして緑ドムが登場するが全ボスの中で最弱だ。一般的にホバー移動というものはスピードが出るが制動性が悪く小回りがきかない。その程度の移動法しか持たないロボットの戦闘力など推して知るべし。
対して赤・青ドムは完全に別物といえるハイスペックさが光る。極めて高い機動性能を誇り、自在に滑空し高速弾を連射。単機での登場が多くハイコストな特別仕様ということがうかがいとれる。緑黒と比べれば一般車とレーシングカーぐらいの差はあるだろう。耳につく登場音も恐怖感をさらに煽ってくれる。
そして9面ボスである金色ドム。これは青ドムのカスタムバージョンで、ハリアーの超能力キャノンを跳ね返すバリアー膜を張っている。この膜のきらめきが金色に映えるのだ。ただ燃料喰いのバリアーは青ドムのジェネレータ出力でも足らないらしく、数回バリアーが消える瞬間があるのが欠点。登場時に中央でかっこつけてないで、定石通り高速移動&弾射出&離脱戦法をとれば良いのにと思わずにいられない。例により登場時間は極めて短く、あっという間に退散してしまう。攻略方法としては左上を飛ぶ時が狙い目だろう。
次はメカニカル面。
まずは関節の特徴を解説しよう。①に頭部が縦軸に大きく可動、②に上半身が横軸に可動と、この2点が挙げられる。
①は右画像の滑空する姿で確認できる。ほぼ90度上を向いているのが分かるだろう。こういった飛び方をするのは青ドムのみだが、量産機である以上は青機だけ首部のクリアランスをとっているとは考えにくい。これは全色同仕様と考えるのが妥当だろう。背面バックパックの形状も見逃せないポイントだ。
そして②はこの振り返り攻撃。足裏を向けつつも赤く光るカメラアイが認識できる。これは腰のひねりで上半身を大きく回している状態である。
これらの点をふまえ、ドムは見た目以上に可動域の広いロボットだということが理解してもらえただろう。
そもそもドムは無人機か有人機かだが、これは無人機説を唱えさせていただきたい。理由は後述。
まずドムの全長を調べてみよう。これはこのアドバタイズ画像からの算出できる。
ハリアーの頭頂から右脚つま先までが62px。腰掛けているがつま先は伸びているのでほぼ身長そのままと考えて大差なかろう。ドムの高さは右脚つま先までで138px。軽く屈伸状態だが右脚がせり出している分これも全長もそのピクセル数に近いものと予想する。そしてハリアーの身長を180cmと仮定しよう。すると1pxあたり約29mmになるので、ドムの全長は約4mと計算できた。
倉田光吾郎氏作
1/1スコープドッグ
ブルーティッシュカスタム
ちなみに「装甲騎兵ボトムズ」のスコープドッグは3.8m。「サクラ大戦」の光武は約2.5m。スコープドッグと同サイズなら行けそうな気もするが、基本的に胴体とは首・腕・腰・股関節の駆動基部が収まるスペースである上にジェネレータなど様々な機構が詰め込まれているだろう。マッスルシリンダーや霊子機関といった架空技術の裏設定がない限りは人が入る余裕など無いという結論である。
そしてメカデザインについて語らねばなるまい。
スペハリがリリースされた1985年。プレイしたあるいは雑誌でドムの存在を知ったゲーマーは皆思ったであろう。「ガンダムの「ドム」のバッタモンだ(笑)」と。特徴的なシルエット、脇に抱えた両手持ちのジャイアント・バズ、ホバリング機能。しかも黒色機まで存在し3機編成で迫ってくるとなれば言い逃れのしようもない。違うのは三つ目の頭部と配色ぐらい。しかもその頭部は「装甲騎兵ボトムズ」のスタンディングトータス/タートルのそれである。バッタモンのそしりは免れない。
右:スタンディングトータス
左:スタンディングタートル
ちなみにあの三連レンズはボトムズのAT(アーマードトルーパー)同様に標準ズーム・精密照準・広角の3種かと予想されるが、ドムのような突撃型の戦法を主とする機体に精密照準レンズなど必要なのかという疑問もある。
閑話休題。セガ程の企業がこんなパクリをしたのか!?という意見もあるかもしれないが、あえて弁護させていただきたい。
当時のゲーム業界とはそういう漫画やアニメのパロディを是とする空気があったのだ。
カプコンの「サイドアームズ」には「ズゴック」もどきや「風の谷のナウシカ」の「巨人兵」の残骸が登場し、ナムコの「オーダイン」には宮崎アニメのオマージュであふれている。そしてがジャレコの「銀河任侠伝」は「スケバン刑事」や「ゴジラ」等様々なキャラが入り乱れるカオス感溢れる良くも悪くも時代を表すゲームである。あまりに自由過ぎる内容ゆえに移植版は1つも出されていないし、未来永劫出ないだろう。
しかしセガやジャレコが悪かったのではない。それが許された(のか?)おおらかな時代であり業界だったのだ。
余談だがセガは体感レースゲーム「スーパーモナコGP」にてレースクイーン画像を米PLAYBOY誌に掲載されたトップレスヌード写真を無断引用し…(以下略)。
ところで「バレル」ってなんスか?何かバレたんですか!?そんな子知りませんよ認めないよ、私は!
セガ的にはドムの名前は使えなくなっちゃったのはしょうがないのかもしれないが、少なくともファンにとってはいつまでたってもドムである事に違いない。
しかし名前はともかく、あのスカートの尻部分が前に来ちゃってるような新デザインはどうにかならないものなのか…。
キミはオタクハリアーを知っているか!
これはX68000版スペースハリアーのキャラクターデータを書き換えた改造版だ。今のPCゲームでいうところのMODである。本作は主に当時のパソコン通信で流通し一部雑誌でも紹介された。
この「オタクハリアー」はガンダム世界をモチーフとした改造版で、主人公こそアムロ・レイだが、連邦・ジオン・エゥーゴ・ティターンズの敵味方も時代すら関係ないカオスっぷりが凄い。ジムが青ドムだったりユーライアがハロだったりと自由奔放だが、「ドム(バレル)」はやはり「ドム(MS09)」なのが心憎い。
同改造版として人気漫画家の高橋留美子キャラが登場する「るーみっくハリアー」や「ストリートファイター」キャラ登場の「ストリートハリアー」という改造版も存在した。
アーケード版発売より約10年にしてようやく悲願の「完全移植」を32Xが果たした。そしてその後1年後、SS版が発売とのアナウンス。スペースハリアーのためだけに32Xを買おうか買うまいか悩んでいた私は大喜び。
発売日は喜び勇んでショップに向かったわけだが、店員曰く「スペースハリアーはミッションコントローラー同梱版のみの入荷です」。はァん?何でやねん!そんなん買う金ないて。他の店に行っても何故か同じ状況。サタマガには「通常版」と「同梱版」が発売となってるのに何故無い…。待ちに待ったスペースハリアーをゲットできずに悶々とほとばしる熱いパトスをもてあます毎日。
そして1~2週間(だったっけ?)してようやく通常版を入手。そして更に数週間後のサタマガの欄外コラムに何かしらの作為があったようなことを臭わす事が書かれていた。
一般ゲーマーには何だかよく分からないが、今となっては同梱版買ったほうが良かったかなとも思う。当時としてはアフターバーナーⅡとパンツァードラグーンぐらいしか使い道は無かったかもしれないが。